マイクもオーディオインターフェースも買った。DAWの設定も済んだ。それなのに録れた声が、なぜかこもっている・ボワボワする・遠い。歌い方を変えても機材を変えても改善しないとき、原因がマイクとの距離と角度だったというケースは、とても多いです。
距離はお金がかからないのに、音質への影響がいちばん大きい設定です。同じマイク・同じ部屋・同じ歌でも、10cm離れるかどうかで仕上がりは変わります。そしてやっかいなことに、距離のミスは録ってしまった後だと戻せないものが混ざっています。
先に結論をお伝えします。宅録でよく使われるコンデンサーマイクなら、口からおよそ15〜20cm、握りこぶし1つ分が出発点です。カラオケのマイクのように口元へ寄せるのは、この種類のマイクでは近すぎます。
ただしこれは「正解」ではなく「出発点」です。声量、マイクの種類、部屋の状態によって最適な距離は変わります。大事なのは、この数字から始めて実際に録音し、聞き返して自分用に微調整するという手順のほうです。
| マイクの種類 | 距離の目安 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| コンデンサーマイク(宅録で一般的) | 15〜20cm | 静かな部屋。細かい息づかいまで拾いたいとき |
| ダイナミックマイク(SM58など) | 5〜10cm | 部屋の音が気になる環境。声量が大きい方 |
| スマホ・PC内蔵マイク | 20〜30cm | まず1曲録ってみたいとき(スマホ録音の限界も参照) |
ダイナミックマイクのほうが近いのは、感度が低く、近づかないと十分な音量を得にくいためです。マイクの種類が違えば、同じ距離でもまったく違う音になります。どのマイクを使うか決めていない方は、先に歌ってみた用マイクの選び方を読んでいただくと、この記事の内容がつながります。
近接効果とは、指向性を持つマイク(単一指向性など、特定の方向の音を拾うタイプ)で、音源が近づくほど低音が強く収音される現象のことです。ラジオのナレーションのような太い声を作りたいときは武器になりますが、歌では困ることのほうが多くなります。
低音がふくらむと、まずオケのベースやキックと帯域がぶつかります。結果として、音量を上げてもボーカルが前に出ず、全体だけが重たくなる。ボーカルが埋もれる・こもるという悩みの入口が、実はマイクとの距離だったということは珍しくありません。
「ぱ」「ば」「ぷ」などの破裂音は、声と一緒に強い息の塊がマイクへ飛びます。これがマイクの振動板に直接当たると、ボフッという低い衝撃音になります。これがポップノイズです。
近いほど息はまっすぐ強く当たるため、距離を詰めるほど発生しやすくなります。軽いものならMIXで処理できますが、波形が大きく振り切れてしまったものは元に戻せません。
音の強さは、音源から離れるほど弱まります。目安として、距離が2倍になると音の圧力はおよそ6dB下がるという関係が知られています(理想的な条件での理論値で、実際の部屋では反響があるため厳密には一致しません)。
ここで重要なのは「同じ10cmでも、近いほど影響が大きい」という点です。
| 元の距離 | 10cm下がると | 距離の変化の割合 |
|---|---|---|
| 10cm | 20cm(2倍) | 音量への影響が大きい |
| 20cm | 30cm(1.5倍) | 影響は中くらい |
| 40cm | 50cm(1.25倍) | 影響は小さい |
つまりマイクに近づくほど、体の揺れがそのまま音量のばらつきになります。サビで前のめりになる、歌詞を見ようと顔を動かす。こうした無意識の動きが、近距離だと音量差として記録されてしまいます。
口を開くときの粘着音や、歌い出す直前の唾液の音。これらは近いほど大きく記録されます。一つひとつ手作業で消していく処理になるため、数が多いと編集の負担がそのまま増えます。対策は宅録のノイズを減らす方法にまとめています。
では離せば安全かというと、そうではありません。宅録では、近すぎる録音より遠すぎる録音のほうが修復しにくいというのが正直なところです。
部屋の反響が気になる場合は、まず宅録の部屋の反響対策・かんたん吸音を試してみてください。マイクの背後や正面に吸音材や厚手の布を置くだけでも、拾う反響の量は変わります。
聞き比べるときのチェック項目は次の3つだけです。
| チェック項目 | 近すぎのサイン | 遠すぎのサイン |
|---|---|---|
| 低音 | 声がボワッとして、こもる | 声が薄く、軽い |
| 破裂音 | 「ぱ」でボフッと入る | ほぼ入らない |
| 背景 | 静か | サーッという音、部屋の響きが聞こえる |
この3つのバランスが最もマシな距離が、あなたの部屋と声にとっての正解です。環境によっては、教科書的な20cmより近いことも遠いこともあります。数字ではなく、自分の音源で決めてください。
距離と同じくらい効くのに見落とされがちなのが角度です。口の正面にまっすぐマイクを構えると、破裂音の息とサ行の鋭さが、最も強く当たる位置になります。
そこで、次のどちらかを試してください。
ずらす量は「息が当たらなくなる最小限」が目安です。外しすぎると声の明るさまで失われるため、変えたら必ず録って聞き比べるという手順はここでも同じです。サ行の鋭さに悩んでいる方は、サ行がキツいときの対処も合わせてどうぞ。
宅録で使われるコンデンサーマイクの多くはサイドアドレス型といって、マイクの側面(ロゴが貼ってある面)に向かって歌うタイプです。縦長の形をしているため、つい上の先端に向かって歌ってしまう方がいます。
裏面や上面に向かって歌うと、音量が小さく、こもった音になります。「機材を買ったのに音が良くならない」という相談で、実際に原因がこれだったことがあります。まずロゴの面を確認してください。
ポップガードは破裂音対策の網ですが、もうひとつ役割があります。マイクと口の間に物理的な壁ができるため、近づきすぎを防いでくれるという点です。
目安として、ポップガードはマイクから5〜10cmほど離して設置し、歌い手はポップガードに触れない位置で歌います。ポップガードに口をつけてしまうと、結局マイクへの距離が近くなり、近接効果は避けられません。
| タイプ | 起きやすいこと | 調整の方向 |
|---|---|---|
| 声が大きい | 音割れ、ポップノイズ | 少し離す(25cm前後から)。それでも割れる場合はゲイン設定を見直す |
| 声が小さい | ノイズが目立つ、声が遠い | 少し近づける(15cm前後)。近づけてもボワつかない角度を探す |
| 強弱の差が大きい | Aメロが埋もれ、サビが割れる | サビ基準で距離を決め、静かな部分はやや近づく。または歌唱側で揃える |
| 部屋が響く | 反響が乗る | やや近づけて、反響の比率を下げる。同時に吸音も行う |
声量そのものを整えたい場合は、声が小さい人の録音と対策や腹式呼吸のやり方と確かめ方が参考になります。息の流れが安定すると、距離のシビアさはかなり下がります。
ここからは、実際に送られてきた音源を扱う側からの話です。距離が原因の問題には、後から手当てできるものと、できないものがはっきり分かれます。
| 症状 | MIXでの扱い | 判定 |
|---|---|---|
| 近接効果による低音のふくらみ | EQで低い帯域を整理 | ある程度直せる |
| 軽いポップノイズ | その部分だけ低い帯域を落とす | ある程度直せる |
| サ行の鋭さ | ディエッサーで抑える | ある程度直せる |
| フレーズごとの軽い音量差 | コンパクトに音量を整える | 直せる |
| 波形が振り切れたポップノイズ | 元の波形が残っていない | 直せない(録り直し) |
| 遠すぎて混ざった部屋の反響 | 声と分離できない | 直せない |
| ノイズに埋もれた小さい声 | 上げるとノイズも上がる | 直せない |
| テイクごとに距離が違い音色が揃わない | つなぎ目が不自然に残る | ほぼ直せない |
表を見ていただくと分かるとおり、「近すぎ」は比較的リカバリーが効き、「遠すぎ」と「距離がバラバラ」は効きません。迷ったときは、離しすぎるより、やや近め+角度をずらすほうが安全です。MIXで何が直せるのかの全体像は直せること・直せないことの境界線にまとめています。
ここまで距離と角度の話をしてきましたが、部屋の反響が強い環境では、距離をどう変えても限界が来ます。近づければ反響は減りますが、そのぶん近接効果とポップノイズが強くなる。離せば反響が乗る。この板挟みになったら、それは距離の問題ではなく部屋の問題です。
その場合の選択肢は3つあります。吸音して部屋を変える、指向性の鋭いマイクに変える、あるいは録る場所を変える。判断材料は自宅 vs スタジオ録音、どっちがいい?とスタジオで録るといくら?に整理しています。
距離まわりで気になる点があるときは、依頼メッセージに一言添えておくと処理がスムーズになります。そのまま使える例文です。
宅録で、コンデンサーマイクを口から20cmほどの距離で録音しました。
ポップガードは使っていますが、「ぱ行」で軽くボフッと入っている箇所があるかもしれません。
また、部屋の反響が少し乗っている自覚があります。
気になる箇所があれば、処理の方向性をご相談させてください。
「自覚している問題を先に伝える」だけで、確認の往復が減ります。依頼文の全体像はMIX依頼の例文テンプレートを、送る前の準備はMIX依頼の準備をご覧ください。
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部屋の反響のせいで距離が決まらない場合は、北池袋のレコーディングスタジオで録るという選択肢もあります。反響が抑えられた環境なら、距離と角度の調整がそのまま音の違いとして分かりやすくなります。声量や息の安定から整えたい方は、ボイストレーニングもご相談ください。