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腹式呼吸のやり方と「できているか」の確かめ方|録音の波形で判定する【歌ってみた・ボイトレ】

2026年9月 公開 ・ ボイトレ・歌唱

「腹式呼吸をしましょう」と言われて、お腹に手を当ててふくらませてみた。たしかにふくらむ。けれど、これで合っているのかどうかが分からない——腹式呼吸でいちばん多いつまずきは、やり方そのものではなく、できているかを自分で判定できないことです。

この記事では、腹式呼吸のやり方を3ステップで整理したうえで、スマホの録音と波形を使って、できているかどうかを目で見て判定する方法を紹介します。感覚ではなく、記録に残る形で確かめる方法です。歌ってみたのMIXを日常的に扱っている立場から、「息が安定している音源」と「していない音源」が実際にどう違って見えるのかも、あわせて書いておきます。

まず結論:腹式呼吸は「お腹をふくらませる技」ではなく「息を一定に流す技」

いちばん最初に、誤解をひとつ外しておきます。

お腹に空気は入りません。空気が入るのは肺だけです。では、なぜお腹がふくらむのか。肺の下には横隔膜(おうかくまく)というドーム状の筋肉があり、これが下に動くと肺が広がって息が入ります。同時に、横隔膜の下にある内臓が押し下げられ、その分だけお腹が前に出る。これが「お腹がふくらむ」の正体です。

つまりお腹のふくらみは、目的ではなく結果です。ここを取り違えると、お腹を意識的に突き出すだけの動きになり、肝心の息のコントロールにつながりません。

歌にとって本当に大事なのは、吸う量ではなく「出す量を一定に保てるかどうか」です。コップの水を一定の速さで注ぎ続けるようなイメージが近いです。勢いよく全部こぼしてしまえば、どれだけ大きなコップを用意しても最後まで持ちません。

腹式呼吸と胸式呼吸は、何が違うのか

普段の生活では、多くの人が胸式呼吸と腹式呼吸を無意識に混ぜて使っています。「胸式呼吸が悪いもの」ではありません。歌うときに向いているのがどちらか、という話です。

観点胸式呼吸腹式呼吸(横隔膜呼吸)
主に動くところ肋骨・肩まわり横隔膜(お腹が前に出る)
見た目の特徴吸うと肩が上がる吸っても肩がほぼ動かない
息を出す長さ短くなりやすい長く保ちやすい
のどへの負担力みが入りやすい比較的入りにくい
向いている場面短い会話、運動時歌唱、ロングトーン、朗読

見分けかたでいちばん簡単なのはです。息を吸ったときに肩が持ち上がっていたら、胸式が優位になっている合図と考えて差し支えありません。鏡の前で数回吸ってみてください。

やり方:寝た姿勢から始める3ステップ

立ったまま練習を始めると、多くの人が「お腹を突き出す動き」に置き換えてしまいます。あお向けに寝ると、体の構造上ほとんどの人が自然に腹式寄りの呼吸になります。そこで正解の感覚を先に覚えてから、姿勢を起こしていく順番が確実です。

ステップ1:あお向けで感覚を覚える(3日〜1週間)

  1. あお向けに寝て、ひざを軽く立てます(腰が反らないようにするためです)。
  2. 片手を胸、もう片手をおへその少し上に置きます。
  3. 鼻から4秒かけて吸います。胸の手はほとんど動かず、お腹の手だけが持ち上がるのが目標です。
  4. 口から8秒かけて、細く長く吐きます。息を「押し出す」のではなく「漏らし続ける」感覚です。
  5. これを5〜10回。息を止めて我慢する必要はありません。

ステップ2:座る → 立つ、と姿勢を上げていく(1〜2週間)

  1. いすに浅く座り、背もたれに寄りかからずに同じ呼吸をします。
  2. できたら立って、壁に背中と後頭部をつけて同じことをします。壁があると、肩が上がった瞬間に自分で気づけます。
  3. 最後に壁から離れて行います。ここで肩が上がり始めたら、ひとつ前の姿勢に戻ります。

ステップ3:声に乗せる(2週間目以降)

  1. 吸ったあと、「スーーー」と息だけを15秒、同じ強さで出し続けます。
  2. 次に同じ息づかいのまま「アーーー」と、無理のない高さで15秒伸ばします。
  3. 慣れてきたら、歌の中のいちばん長いフレーズを1行だけ取り出して、同じ息づかいで歌います。

ステップ3まで来たら、次の章の判定テストに進んでください。ここからが、この記事の本題です。

🎤 呼吸から見てもらえるボイトレを探す(YOU_MIX ボイストレーニング)

【本題】できているかを、録音の波形で判定する3つのテスト

手をお腹に当てる確認方法には、決定的な弱点があります。感覚に頼るため、できている気になりやすいことです。しかも、うまくいった日とそうでない日を比べられません。

そこで、スマホのボイスメモで録って、波形を見る方法をおすすめします。波形とは、音の大きさを時間の流れに沿って描いたグラフのことです。iPhoneのボイスメモやAndroidの録音アプリでも、録音後に波形が表示されます。より細かく見たい場合は、無料のDAW(音楽制作ソフト)に読み込むとさらに分かりやすくなります。

テスト1:15秒ロングトーンの「形」を見る

「アーーー」と15秒伸ばして録音し、波形の形を確認します。

波形の形読み取れること
横長の帯のように、太さがほぼ一定◎ 息が一定に流れています。目標の状態です
右に行くほど細くなる(右下がり)息が後半で足りなくなっています。前半で使いすぎている合図です
ギザギザと波打っている息の量が細かく揺れています。支えが安定していません
最初だけ太く、すぐ細くなる吸った直後に一気に漏らしてしまっています。いちばん多いパターンです

ポイントは、上手い下手を判定しているのではないということです。これは「息が一定かどうか」だけを見ているテストです。だからこそ、練習の前後で比べる材料になります。

テスト2:ブレス(息継ぎ)の音を聞く

歌を1コーラス録音して、息を吸っている箇所だけを聞き返します。

ブレス音は、MIXの現場でも扱いの難しい部分です。鋭いブレスは耳に残りやすく、処理で小さくすると今度は不自然になります。詳しくはブレス・息継ぎノイズの処理(消しすぎない加減)にまとめています。録音の時点で静かに吸えていれば、そもそも処理の必要が減ります。

テスト3:フレーズの「語尾」を見る

波形の中で、フレーズの終わり(語尾)だけに注目します。語尾が急にストンと細くなっているなら、息が最後まで持たずに切れている状態です。

これは聴感上「言葉が尻すぼみになる」「歌詞が聞き取りにくい」と受け取られる原因のひとつになります。語尾の処理は歌詞の伝わりやすさに直結するので、気になる方は歌詞が聞き取れないと言われる原因と直し方もあわせてどうぞ。

記録の残し方のコツ。練習初日のロングトーンを1本、必ず消さずに保存しておいてください。2週間後、4週間後に同じ条件で録って並べると、変化が波形の形として見えます。ボイトレでいちばん挫折しやすいのは「変わっている実感がない」ときです。目で見える記録は、その対策になります。

現場から:息が安定している音源は、MIXで何が違うか

ここは、MIXを預かる側からの話です。

音量の波は、コンプレッサー(大きい音を抑えて、音量差を縮める処理)である程度ならすことができます。ですから「息が不安定だとMIXできない」わけではありません。実際、ほとんどの音源には多かれ少なかれ波があります。

ただし、コンプレッサーは音量差を縮める処理なので、小さい部分を持ち上げるときに、その部分に含まれるノイズや部屋の反響も一緒に持ち上がります。息が大きく揺れている音源ほど強くかける必要があり、その分だけ副作用も大きくなります。エアコンの音や部屋鳴りが目立ってくるのは、たいていこの経路です。

そして、加工では戻せないものもあります。

逆に言えば、呼吸が安定した音源は、コンプレッサーを浅くかけるだけで済みます。浅くかけられるということは、ノイズも持ち上がらず、声の自然さも保たれるということです。仕上がりの差は、ここでかなり決まります。同じことは声量がない・小さいと言われる人へでも別の角度から扱っています。

MIXでどこまで直せて、どこからは直せないのか——境界線を先に知っておくと、練習と依頼の使い分けがはっきりします。MIXでどれくらい良くなるのかもあわせてどうぞ。

よくある失敗5つ

  1. お腹を「突き出す」動きになっている。力を入れて前に出すのではなく、息が入った結果として自然にふくらむのが正解です。腹筋に力を込めた瞬間、息はむしろ出しにくくなります。
  2. 吸う量を増やそうとしている。限界まで吸うと、体が張って息を細く出すのが難しくなります。7〜8割を目安に。息が続かない原因は、吸う量より漏らす速さにあることが多いです。
  3. 息を止めて我慢する練習をしている。目的は「止める」ではなく「一定に流す」です。止めて粘る練習はめまいの原因になるため、おすすめしません。
  4. 肩が上がっていることに気づいていない。自分では分かりません。鏡を見るか、壁に背中をつけて確認してください。
  5. 1日で結果を求めてしまう。呼吸は無意識の動作なので、上書きには時間がかかります。長時間まとめてやるより、短く毎日続けるほうが向いています。

練習メニュー:1日5分・4週間

時期やること目安
1週目あお向けで4秒吸って8秒吐く5分/日
2週目座って同じ呼吸+「スー」15秒5分/日
3週目立って(壁に背中)+「アー」15秒を録音5分/日
4週目歌の長いフレーズ1行に乗せる+録音して1週目と比較5〜10分/日

週の終わりに1回だけ、テスト1のロングトーンを録っておいてください。4週目に4本並べて波形を見るのが、この練習のいちばんの目的です。

なお、練習前に声が出やすい状態を作っておくと、呼吸だけに集中しやすくなります。歌う前のウォームアップ・発声練習を先にどうぞ。のどの調子が悪い日は無理をせず、喉を守る・声を枯らさない方法を優先してください。

それでも安定しないときに考えること

4週間続けても波形が安定しない場合、原因が呼吸の外にあることがあります。

教室を検討する場合の見るべき項目は、ボイトレ教室の選び方|料金相場・体験レッスンで見る7項目に整理しています。

🎧 呼吸・発声から見るボイストレーニング(北池袋)

また、部屋の反響が判定の邪魔をしている場合は、防音された環境で一度録ってみると切り分けが早く済みます。北池袋のセルフ録音スタジオや、自宅とスタジオの違いもご参考にどうぞ。

よくある質問

Q. 腹式呼吸はお腹に空気を入れる呼吸ですか?

いいえ。空気が入るのは肺だけです。横隔膜が下に動くと、その下にある内臓が押し出されてお腹がふくらんで見えます。「お腹に空気を入れる」は、その見た目を説明するための言い回しです。

Q. 腹式呼吸ができているか、自分で確かめる方法はありますか?

スマホで15秒のロングトーンを録音し、波形を見るのがいちばん確実です。息が安定していれば波形は横長の帯のような形になります。手をお腹に当てる方法は感覚に頼るため、できている気になりやすいという弱点があります。

Q. できるようになるまで、どのくらいかかりますか?

個人差が大きく、一概には言えません。ただし「寝た姿勢で感覚をつかむ」ところまでは、多くの人が数日から2週間程度で到達します。時間がかかるのは、立った姿勢や、歌いながら同じ状態を保つ段階です。

Q. 息が続かないのは肺活量が足りないからですか?

肺活量そのものが原因であることは、あまり多くありません。多くの場合は、吸った息を必要以上に速く漏らしてしまっている状態です。吸う量を増やすより、出ていく息を一定に保つ練習のほうが、結果につながりやすいと考えられます。

Q. 腹式呼吸ができていない音源は、MIXで直せますか?

音量の波はコンプレッサーである程度ならせます。ただし小さい部分を持ち上げる際にノイズや部屋鳴りも一緒に持ち上がります。声の芯が細くなる、語尾の子音が消えている、といった部分は加工では戻せません。

Q. 練習は毎日どのくらいやればいいですか?

長時間やるより、短く毎日続けるほうが向いています。この記事では1日5分を4週間の目安として紹介しています。息を止めて苦しくなるまで粘るような練習は避けてください。

まとめ

この記事の内容は、一般に広く知られている呼吸の仕組みと、歌ってみたのMIXを扱う中で繰り返し観察してきた傾向をもとにまとめています。上達までの期間や効果の出かたには個人差があり、断定できるものではありません。体に痛みや強い違和感がある場合は、練習を中止して専門家にご相談ください。

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