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家で声が出せない人の、歌ってみた録音
賃貸・深夜でも録れる5つの場所

2026年9月5日 公開 ・ 録音・機材
YOUMIX 運営者(MIXエンジニア/ボーカルディレクター)のアイコン 監修:YOU_MIX ボーカルディレクター 東京・北池袋/歌ってみたMIX・ボーカルディレクション担当・累計3,000曲
賃貸の自室で、声量を抑えながら歌ってみたを録音しているイメージ

録りたいんですけど、家で声が出せなくて

ご相談のなかで、機材の質問と同じくらい多いのがこれです。マイクは買った。DAWも入れた。歌いたい曲も決まっている。それでも録れない。理由は技術ではなく、住んでいる場所です。

壁の薄いアパート。隣に人がいる実家。帰宅が22時を回る生活。家族に聞かれるのが恥ずかしいという気持ち。どれも、機材を買い足しても解決しません。

この記事では、累計3,000曲のデータを受け取ってきた側から、次の3つを整理します。

この記事の前提について。音漏れの感じ方や、近隣とのちょうどよい距離感は、建物の構造・地域・住んでいる人によって大きく変わります。ここに書いているのは、あくまで一般的な目安と、MIXの現場で見てきた傾向です。契約内容や管理規約が優先されますので、最終的にはご自身の環境に合わせて判断してください。
この記事の流れ
  1. 結論(3行)
  2. まず知ってほしい──「小さい声」はMIXで大きくできない
  3. 録音場所5パターン 完全比較表
  4. ① 自室で録る──音漏れを減らす、お金をかけない順の手
  5. ② クローゼット・押し入れ──効くのは「音漏れ」ではなく「音質」
  6. ③ カラオケボックス──いちばんコスパの良い逃げ道
  7. ④ レンタルスタジオ──1時間で終わらせる録り方
  8. ⑤ 車の中──条件が合えば、かなり良い
  9. 時間帯の現実──何時までなら歌えるのか
  10. どうしても小声で録るときの、5つの技術
  11. MIXで直せるもの・直せないものの境界線
  12. 依頼するときに、必ず伝えてほしい一文
  13. よくある質問

1. 結論(3行)

家で声を出せないなら、家で録ろうとするのをやめたほうが早い。カラオケボックスなら1時間1,000円前後、レンタルスタジオでも数千円で、思い切り歌える環境が手に入ります。防音設備を買うより、圧倒的に安く済みます。

どうしても家で録るなら、狙うべきは「音漏れを減らす」ではなく「短時間で終わらせる」。個人が賃貸でできる遮音対策には限界があります。実際に効くのは、録る時間帯を選ぶことと、通し録りを3〜5本で切り上げることです。

そして、小声で録ったデータは、MIXで力強くはなりません。音量は上げられますが、声の密度は上げられません。ここを理解しておくかどうかで、完成した歌ってみたの説得力が変わります。

2. まず知ってほしい──「小さい声」はMIXで大きくできない

いちばん多い誤解から先に解いておきます。

「小さい声で録っても、あとでMIXの人に大きくしてもらえばいい」──これは、半分だけ正しくて、半分は間違っています

音量は上げられる。ノイズも一緒に上がる

録音された音を大きくする操作は、単純な掛け算です。声を3倍にすると、その裏で鳴っていたエアコンの音も3倍になります。パソコンのファン、冷蔵庫のうなり、外を走る車、上の階の足音。小さい声で録るということは、これらのノイズとの音量差が小さい状態で録るということです。

この音量差のことを、音の世界では「S/N比(エスエヌひ/signal-to-noise ratio)」と呼びます。信号(歌)と雑音(ノイズ)の比率、という意味です。小声録音は、このS/N比が悪い状態です。

たとえるなら、写真の「暗いところで撮った画像」です。暗い写真を明るく補正すると、ざらざらとした粒子(ノイズ)が一緒に浮かび上がってきます。声も同じで、小さく録ったものを持ち上げると、隠れていたノイズが表に出てきます。あとから明るくするより、最初から明るい場所で撮ったほうがきれいなのは、音でもまったく同じです。

もっと重要なのは「声の中身が変わる」こと

ノイズは、まだ処理でなんとかできる余地があります。しかし、こちらは処理できません。

人の声は、声帯がしっかり閉じて振動することで、倍音(ばいおん)と呼ばれる高い成分をたくさん含んだ、密度のある音になります。ところが声量を抑えると、声帯の閉じ方が浅くなり、息の成分が増えて、倍音が減ります。

その結果できあがるのが、「音量を上げても、なぜか前に出てこない声」です。数値としては十分な大きさなのに、オケに混ぜると埋もれる。これがMIXの現場でいちばん困る状態です。

録り方MIXで上げられるか結果
しっかり出した声そもそも上げる必要が少ない芯があり、オケの上に自然に乗る
少し抑えた声上げられるほぼ問題なし。実用範囲
かなり抑えた声上げられるが、ノイズも上がる細い。エフェクトでごまかす必要が出る
囁き声に近い声上げられるが、声にならない力強い曲には使えない。録り直し推奨

つまり、「少し抑える」までは実用範囲、「かなり抑える」から先は要注意、というのが実感としての線引きです。ご自身の録音がどのあたりにあるかは、声量の測り方の記事で確認できます。

3. 録音場所5パターン 完全比較表

では、どこで録るか。現実的な選択肢は5つです。まず全体像を出します。

場所費用の目安声量音質手軽さ向いている人
自室0円戸建て・角部屋・日中に時間が取れる人
クローゼット0円音質を上げたい人(音漏れ対策にはならない)
カラオケ1時間 500〜1,500円前後とにかく声を出したい人・深夜に録りたい人
レンタルスタジオ1時間 1,000〜4,000円前後本気の1曲を仕上げたい人
車の中0円(+移動費)車を持っていて、静かな駐車場が使える人

費用はいずれも2026年時点の一般的な目安で、地域・時間帯・プランによって変わります。以下、それぞれを詳しく見ていきます。

4. ① 自室で録る──音漏れを減らす、お金をかけない順の手

まずは自室から。0円でできることから順に並べます。上から順に試して、必要なところで止めてください。

手1:隣室と接していない壁を向いて歌う(0円・効果 大)

これがいちばん費用対効果が高い手です。声はマイクの正面だけでなく、自分の口から前方に向かって飛んでいきます。ですから、隣の部屋と接している壁に向かって歌うと、その壁に直接、声のエネルギーをぶつけていることになります。

やることは単純です。部屋の中で、隣室・上階・下階の生活空間からいちばん遠い方向を向いて歌う。多くの場合、それは窓とは反対側の、クローゼットや本棚のある壁です。向きを変えるだけで、隣室に届く音は体感でわかるほど変わります。

手2:壁から離れる(0円・効果 中)

壁に近いところで歌うと、声が壁を直接震わせます。できるだけ部屋の中央に立つだけで、壁に伝わる振動は減ります。同時に、壁からの反射音がマイクに回り込むのも減るため、音質も良くなります。一石二鳥の手です。

手3:布を増やす(0円〜数千円・効果 中/主に音質)

布団、毛布、カーテン、ラグ、クッション。部屋にある布を、歌う位置の周りに集めます。これは音漏れではなく、部屋鳴り(残響)を減らす対策です。詳しくは宅録の部屋の反響対策の記事にまとめています。

ただし、布は「音を止める」ことはできません。音を止めるのは重さです。この違いは、この記事のなかでいちばん誤解されているポイントなので、次の項でもう一度触れます。

手4:ドアの隙間をふさぐ(数百円・効果 小〜中)

音は、隙間があると簡単に通り抜けます。特にドアの下の隙間は、廊下を経由して家中に声を届ける通路になっています。市販の隙間テープや、丸めたバスタオルを置くだけでも、廊下側への漏れは減ります。

手5:時間帯を変える(0円・効果 最大)

結局、これがもっとも効きます。日中の、生活音が多い時間帯に録る。平日の昼間、あるいは休日の午後。周囲でも掃除機や洗濯機が回り、外を車が通っている時間帯なら、多少の歌声は環境音に紛れます。次の章で詳しく扱います。

やっても意味が薄いこと。卵のパックを壁に貼る、薄い吸音スポンジを数枚貼る、といった方法は、SNSでよく見かけますが、音漏れにはほとんど効果がありません。これらは軽すぎて、音を止めるだけの質量がないためです(音質面にはわずかに効きます)。壁に穴を開けたり跡を残したりする前に、この点は知っておいてください。

5. ② クローゼット・押し入れ──効くのは「音漏れ」ではなく「音質」

「クローゼットの中で録るといい」という話は、あちこちで見かけます。これは本当です。ただし、目的が違います。

効くこと:部屋鳴りが消える

クローゼットの中は、服がぎっしり詰まっています。服の繊維は、音の反射を非常によく吸います。その結果、壁で跳ね返った音がマイクに戻ってこない、素直な声が録れます。

MIXを受け取る側から見ると、この違いは大きいです。部屋鳴りの少ない声は、リバーブ(残響)を後から自由に足せます。逆に、最初から部屋の響きが乗っている声は、それを消すことができないため、曲に合わせた空間を作れません。クローゼット録音は、この点で確かに有利です。

効かないこと:外への音漏れ

一方で、外に漏れる声はほとんど変わりません。理由は先ほど書いたとおり、服には音を止めるだけの重さがないからです。

音を止める(遮音する)ために必要なのは、重さと気密性です。コンクリートの壁が音を止めるのは、重いからです。服は音を吸いますが、通り抜けようとする音を押し返す力はありません。

覚えておくと混乱しない2つの言葉 吸音(きゅうおん):音の反射を減らす。布・スポンジ・服が担当。  → 効果:録り音がスッキリする。音漏れは減らない。 遮音(しゃおん):音を向こう側に通さない。重い壁・厚いドアが担当。  → 効果:音漏れが減る。個人が賃貸で導入するのは難しい。

ネットの情報で「防音対策」と一括りにされているものの多くは、実際には吸音の話です。この2つを分けて考えると、何を買うべきで何が無駄かが、はっきり見えるようになります。

実際にやるときの注意

録る場所が決まらないまま止まっているなら、一度ご相談ください。
環境に合わせた録り方から、無料でお答えします。
料金と依頼の流れを見る

6. ③ カラオケボックス──いちばんコスパの良い逃げ道

ここからが本題かもしれません。家で声を出せないという問題は、家の外に出ることで、あっさり解決します。

そして、そのなかでもっとも安く、もっとも手軽なのがカラオケボックスです。

なぜカラオケが有力なのか

項目カラオケボックスの場合
費用平日昼なら1時間500円前後から。フリータイムを使えばさらに安くなる
声量制限なし。思い切り出せる
時間帯24時間営業の店舗なら深夜でも可
予約当日でも取りやすい
音質壁に吸音材が入っているため、宅録より素直なことが多い

特に「夜しか時間がない人」にとって、24時間営業の店舗の存在は決定的です。家では絶対に歌えない時刻に、思い切り歌えます。

録音する前に、必ず確認すること

ひとつだけ、先に済ませておくべきことがあります。

店舗に「録音機材を持ち込んで、自分の音源で歌ってもいいか」を確認してください。店舗やチェーンによって方針が異なり、機材の持ち込みや録音行為が認められていない場合があります。予約時の電話一本で確認できますし、これを飛ばすと現地で困ることになります。

カラオケで録るときの実務手順

  1. 部屋を選ぶ。可能であれば、通路や受付から遠い部屋を希望します。隣室の歌声と、廊下の話し声が主なノイズ源です。
  2. カラオケ機器は使わない。店の音源ではなく、自分で用意したインスト(オフボーカル音源)を、パソコンやスマホからヘッドホンで聴きながら録ります。スピーカーから流すと、その音がマイクに入ってしまい、MIXできなくなります。
  3. 機器の電源を切るか、音量をゼロにする。待機画面のBGMが鳴り続けていることがあります。
  4. エアコンの真下を避ける。吹き出し口の風がマイクに当たると、低い「ゴー」という音が入ります。
  5. 部屋の中央寄りで、壁から離れて録る。自室のときと同じ理屈です。
  6. 最初に30秒テスト録音して、必ず聴き返す。ここを飛ばして1時間録り続け、全部使えなかった、という失敗が実際にあります。
持ち物の最小構成。オーディオインターフェース+マイク+マイクスタンド+ヘッドホン+ノートパソコン+各種ケーブル+電源タップ。電源タップは忘れがちですが、部屋のコンセントが1口しかないことが多いので必須です。ケーブル類は前日にすべて接続テストをしておいてください。現地で「ケーブルが1本足りない」は、1時間分の料金がそのまま消えます。

7. ④ レンタルスタジオ──1時間で終わらせる録り方

もう一段、本気で録りたい場合の選択肢です。

レンタルの録音スタジオは、そもそも録音するために作られた部屋です。遮音も吸音も設計されており、機材が備え付けのところも多く、手ぶらに近い状態で行ける場合もあります。

カラオケとの違い

比較項目カラオケレンタルスタジオ
費用安いやや高い
音質実用範囲明確に良い
ノイズ隣室・廊下の音が入ることがあるほぼ入らない
機材基本は持ち込み備え付けがある場合が多い
人の助けなしスタッフやエンジニアがいる場合がある

費用の詳しい相場と当日の流れは、レコーディングスタジオの料金相場の記事にまとめています。また、宅録とスタジオ録音の違いの記事も参考になります。

1時間を無駄にしないための準備

スタジオは時間課金です。現地で考え始めると、そのぶんお金が減ります。次の3つは、家を出る前に終わらせてください。

YOUMIXでは、東京・北池袋でレンタル録音スタジオを運営しています。歌ってみたの録音に必要な機材はひととおり揃っており、録音とMIXをまとめてご相談いただくこともできます。「家で声が出せない」が理由で止まっている方は、こういう場所を1回だけ使ってみる、という選択肢もあります。→ 北池袋のレンタル録音スタジオを見る

8. ⑤ 車の中──条件が合えば、かなり良い

意外に思われるかもしれませんが、車の中は録音場所として悪くありません。

良い点

注意点

9. 時間帯の現実──何時までなら歌えるのか

法律で「何時まで歌っていい」と決まっているわけではありません。ただ、生活音として受け入れられやすい時間帯という、社会的な相場は存在します。

時間帯家で録る難易度コメント
6:00〜8:00高い早朝は静かなぶん、声がよく通ってしまう
10:00〜17:00低い(推奨)周囲の生活音が多く、もっとも紛れる時間帯
17:00〜20:00在宅者が増えるが、まだ許容されやすい
20:00〜22:00高い短時間なら。通し録りを数本で切り上げる前提で
22:00以降非常に高い家で歌うのは避ける。外の選択肢に切り替える

これは絶対的な基準ではなく、多くの自治体が生活騒音について案内している「夜間・早朝を避ける」という考え方に沿った、実務的な目安です。建物の構造と近隣との関係によって、正解は変わります。

もっとも現実的な運用。「休日の午後に、通し録りを3〜5本、30分以内で終わらせる」。これがいちばん揉めません。だらだらと2時間歌い続けるより、集中して短く済ませたほうが、近隣にも喉にも優しく、しかもテイクの質は上がります。録音は何テイク録るべきかの記事でも書いたとおり、採用されるテイクは3〜5本目に集中します。長く録っても、良くはなりません。

10. どうしても小声で録るときの、5つの技術

「外に行く時間がない、今日どうしても録りたい」。そういう日もあります。その場合に、被害を最小限にする方法を5つ挙げます。

技術1:囁き声にしない。「息を混ぜず、量だけ減らす」

これがいちばん重要です。声量を落とすとき、多くの人は息を混ぜたブレスボイスに逃げます。しかし、これをやると声の芯が完全に消え、MIXで復活させられなくなります。

目指すのは、声帯の閉じ方はそのまま、送る息の量だけを減らす状態です。感覚としては「遠くにいる人に、近くの人だけに聞こえるように話す」ような発声です。小さくても、芯は残ります。この感覚がつかめない場合は、ボイストレーニングで一度確認してみる価値があります。声量のコントロールは、練習で確実に身につく技術です。

技術2:マイクを近づける(ただし近づけすぎない)

声が小さいなら、マイクを近づけて補います。普段より数センチ近づけるだけで、録れる音量は上がり、相対的にノイズは小さくなります。

ただし、近づけすぎると2つの問題が出ます。ひとつは近接効果(きんせつこうか)で、低音が不自然に増えてこもります。もうひとつは破裂音(「ぱ」「ば」行の風)が強く当たることです。ポップガードを必ず入れて、拳1つ分程度は空けてください。

技術3:ゲインを上げすぎない

声が小さいからといって、オーディオインターフェースのゲイン(入力音量)を上げきるのは逆効果です。ゲインを上げると、機材自身が発するノイズも一緒に増幅されます。また、不意に大きな声が出たときに音割れします。

目安は、いちばん大きく歌ったところでメーターが-6dB前後に収まる程度です。詳しくは録音が音割れする原因と直し方にまとめています。

技術4:ノイズ源を全部止めてから録る

小声録音では、普段は気にならないノイズが致命傷になります。録音ボタンを押す前に、次を確認してください。

技術5:無音を10秒録っておく

これはMIX側にとって非常にありがたいひと手間です。歌う前に、何もしゃべらず、その部屋の環境音だけを10秒間録音してください。

この「無音」があると、ノイズ除去の処理で「消すべきノイズの正体」を正確に指定できます。当てずっぽうで消すのと、実際のノイズの成分を見て消すのとでは、仕上がりの自然さがまったく違います。ファイル名は noise_10sec.wav のようにしておけば、伝わります。

小声録音のときに送ってほしいファイル 01_主旋律_take3.wav 02_ハモリ上_take2.wav 03_inst.wav 04_noise_10sec.wav ← これがあると仕上がりが変わります

ファイル名の付け方は、MIX依頼のファイル命名規則にまとめています。

11. MIXで直せるもの・直せないものの境界線

小声録音・宅録環境のデータについて、正直なところを表にします。

症状MIXで補足
音量が小さい◎ 直せるただしノイズも一緒に上がる
エアコンの定常ノイズ○ かなり減らせる無音データがあれば精度が上がる
パソコンのファン音○ 減らせる同上
外を走る車の音△ 部分的に不規則な音は消しにくい
家族の話し声が入った× ほぼ無理声の成分が歌と重なるため。録り直しが確実
部屋の反響が乗っている△ わずかに足すのは簡単、消すのは困難
声に芯がない・細い× 作れないエフェクトで別の質感にはできるが、力強くはならない
息が多すぎる△ 目立たなくはできる元の声の成分が足りないと限界がある
音程のズレ○ 直せるただし声色は変わらない
タイミングのズレ◎ 直せる詳しくはこちら

ここで注目していただきたいのは、「×」が付いているものが、すべて『録音時にしか決められないこと』だという点です。

ノイズは技術で減らせます。音程もタイミングも直せます。しかし、その声にどれだけの密度があったかは、録った瞬間に決まってしまい、あとから足せません。だからこそ、「録れる場所を確保する」ことに、これだけの分量を割きました。

MIXで直せる範囲の全体像は、歌が下手でもMIXで上手く聞こえる?の記事でさらに詳しく整理しています。

12. 依頼するときに、必ず伝えてほしい一文

最後に、実務的なお願いです。

小声で録った、あるいは環境に制約があるなかで録ったデータをMIXに出すとき、依頼文に一言だけ添えてください。

この一文があるだけで、仕上がりが変わります 「賃貸のため声量を抑えて録音しています。  エアコンのノイズが入っているかもしれません。  無音データも同梱しました。」

これがあるかないかで、MIX側の設計が変わります。

何も書かれていない場合、受け取った側は「この細さは表現なのか、環境の制約なのか」を判断できません。表現だと思えばその質感を活かす方向で作りますし、制約だと分かっていれば、密度を補う方向の処理を最初から組み立てます。この2つは正反対の作業です。

制約は、隠すよりも共有したほうが良い結果になります。「うまく録れなくてすみません」と謝る必要もありません。環境は選べないことのほうが多いですし、それを前提に仕上げるのが、こちらの仕事です。

依頼文の全体像は、MIX依頼の例文テンプレートにコピーして使える形でまとめてあります。

13. よくある質問

Q. 賃貸マンションで歌ってみたを録音しても大丈夫ですか?

多くの賃貸物件では、常識的な時間帯の生活音として扱われる範囲であれば問題になりにくいのが実情です。ただし、これは物件の構造と契約内容によって大きく変わります。木造・軽量鉄骨のアパートは声がほぼそのまま隣室に届きますし、契約書に楽器演奏禁止の条項がある場合、歌唱がそこに含まれると解釈されることもあります。まずご自身の賃貸借契約書を確認してください。そのうえで、隣室と接していない壁の側で、朝10時から夜8時ごろまでの時間帯に、通し録りを短時間で終わらせる、という運用が現実的です。心配な場合は、録音場所を家の外に移すほうが結果的に安心して歌えます。

Q. 小さい声で録音しても、MIXで大きくしてもらえますか?

音量そのものは上げられます。しかし、小さい声を大きくすると、声と一緒にノイズも同じ倍率で大きくなります。エアコンの音、パソコンのファンの音、部屋の外の車の音が、声と一緒に持ち上がってきます。さらに、小さい声は声帯の閉じ方が浅いため、そもそも倍音が少なく、音量を上げても芯のある声にはなりません。MIXで上げられるのは音量であって、声の密度ではない、というのが正確な言い方です。囁くように歌ったものを、力強く歌ったように聞かせることはできません。

Q. クローゼットや押し入れの中で録音するのは有効ですか?

音漏れを防ぐ効果は限定的ですが、音質を良くする効果は非常に大きいです。衣類が壁の反射音を吸ってくれるため、部屋鳴りの少ない、MIXしやすい素直な声が録れます。ただし、外に漏れる音の量はほとんど変わりません。服は音を吸いますが、音を止める重さがないためです。つまりクローゼット録音は「近所への対策」ではなく「音質の対策」です。この違いを取り違えると、狭くて苦しい思いをしたのに音漏れは減っていない、という結果になります。

Q. カラオケボックスで歌ってみたを録音するのはアリですか?

声を思い切り出せるという一点において、非常に有力な選択肢です。1時間あたりの費用も安く、防音も確保されています。注意点は3つあります。第一に、店内BGMや隣室の音が入るため、通路から遠い部屋を選び、可能なら部屋の中央で録ること。第二に、カラオケ機器の音は使わず、必ず自分で用意したインストをヘッドホンで聴きながら録ること。第三に、店舗によっては機材の持ち込みや録音自体が禁止されている場合があるため、予約時に確認することです。3点目は特に重要で、事前の一本の電話でトラブルを防げます。

Q. 夜しか時間がありません。何時まで録音していいですか?

法律で一律の時刻が決まっているわけではありませんが、生活音として許容されやすいのは、おおむね朝8時から夜9時ごろまでという感覚が一般的です。多くの自治体の生活騒音に関する案内でも、夜間と早朝を避けることが推奨されています。夜10時以降にどうしても録りたい場合は、家の中で歌うのではなく、24時間営業のカラオケボックスや深夜利用できるレンタルスタジオに移すのが現実的です。無理に小声で録ったテイクは、結局MIXの段階で使えず、録り直しになることが多いです。移動時間を含めても、外で録るほうが早く終わります。

Q. 車の中で録音するのはどうですか?

意外に相性が良い場所です。シートと天井の内張りが音を吸うため、反響が少なく、録音としては素直な音になります。周囲に住宅がない駐車場を選べば、声量も出せます。注意点は、エンジンを切ること、エアコンを止めること、そして窓を閉めた状態は短時間で息苦しくなるため、こまめに換気することです。また、私有地でない場所での長時間の停車は避けてください。夏場と冬場は車内の温度変化が激しく、機材にも喉にも良くないため、季節を選ぶ場所でもあります。

Q. 防音マイクや吸音ボックスを買えば解決しますか?

期待する効果によります。マイクの周りに付ける吸音ボックス(リフレクションフィルター)は、部屋の反響がマイクに回り込むのを減らす道具で、音質の改善には確かに効きます。しかし、外に漏れる声を減らす効果はほとんどありません。声はマイクの後ろにも回り込んで部屋中に広がるためです。近所への音漏れを本気で減らしたい場合、必要なのは吸音材ではなく、質量のある遮音材と気密性で、これは賃貸で個人が導入するにはかなり大掛かりになります。費用対効果でいえば、防音設備を買うより、外の録れる場所を使うほうが安く済むことが多いです。

Q. 小声で録ったデータでも、MIXを依頼していいですか?

依頼していただいて構いません。ただし、依頼時に「声を出せない環境で録りました」と一言添えてください。それが分かっているだけで、ノイズ処理の順番と補正の強さの設計が変わり、仕上がりが目に見えて良くなります。何も言われずに届くと、その細さを表現として意図したものか、環境の制約なのかが判断できず、どちらとも決めきれない中途半端な処理になりがちです。制約は、隠すよりも共有したほうが良い結果になります。

14. まとめ

もう一度、要点だけ並べます。

「声が出せないから」で歌ってみたを諦めてしまう方を、これまで何人も見てきました。けれども、その多くは機材の問題でも、才能の問題でもなく、場所の問題です。そして場所の問題は、たいてい1時間1,000円くらいで解決します。

録る場所さえ決まれば、あとは順番どおりに進むだけです。

録れたら、次はMIXです。
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