ロングトーンの語尾で声を揺らそうとしたら、喉が震えるだけで終わってしまった。あるいは揺らせてはいるけれど、これで合っているのか自分では分からない。ビブラートは「かけ方」を説明した記事がたくさんあるのに、「できているかどうか」を確かめる方法がほとんど語られない技術です。
この記事では、ビブラートを「速さ」と「深さ」という2つの要素に分けて捉え、スマホ録音で自分の状態を判定するやり方をまとめます。そのうえで、MIXの現場でよく起きている「ピッチ補正をかけたらビブラートが消えた」という問題まで、正直にお話しします。
最初に結論をお伝えします。ビブラートとは、目的の音程を中心にして、音の高さが規則正しく上下に揺れている状態のことです。そして、その揺れは次の2つの数字で説明できます。
この2つに分けて考えることが、なぜ大事なのか。「ビブラートがうまくいかない」と感じている人の悩みは、たいていどちらか一方に原因があるからです。
| 感じている悩み | 原因になりやすいほう |
|---|---|
| 揺れが細かすぎて、震えているように聞こえる | 速さが速すぎる |
| 揺れが重たく、もったりして聞こえる | 速さが遅すぎる |
| 揺らすと音痴に聞こえる | 深さが深すぎる/中心がずれている |
| 揺らしているつもりだが、ほとんど聞こえない | 深さが浅すぎる |
「ビブラートが下手」というひとかたまりの悩みに見えても、分解すると直すべき場所は1か所であることがほとんどです。だから、まず自分がどちらの問題を抱えているのかを知るところから始めます。
もう少し正確に言うと、人の歌のビブラートでは音程・音量・声色(こわいろ)の3つが同時に、連動して変化しています。音程が上がるときにわずかに音量も上がり、響きの明るさも少し変わる。この連動があるからこそ、人の声のビブラートは「生きている」ように聞こえます。
この事実は、記事の後半で出てくる「なぜMIXでビブラートを作れないのか」という話に直結します。ここではひとまず、ビブラートは音程だけの現象ではないとだけ覚えておいてください。
速さと深さに、絶対的な正解はありません。ジャンルによっても、曲の雰囲気によっても、心地よい揺れは変わります。そのうえで、スタート地点として持っておくと役に立つ目安を整理します。
| 要素 | 一般的にいわれる目安 | 外れるとどう聞こえるか |
|---|---|---|
| 速さ | 1秒あたりおよそ5〜7回の揺れ | 速すぎる → 震え声・ヤギの鳴き声のよう 遅すぎる → 音程が不安定なだけに聞こえる |
| 深さ | 半音に満たない程度から半音前後まで | 深すぎる → 音痴に聞こえる 浅すぎる → かかっていないように聞こえる |
| かけ始め | 音を伸ばしておおむね1拍前後してから | すぐ揺らす → 慌ただしい印象 遅すぎる → かける前に音が終わる |
ここがこの記事の中心です。ビブラートの練習でいちばんつまずきやすいのは、「自分では揺らしているつもりなのに、聞いている人には違って聞こえている」というズレです。歌っている本人には、骨や体の中を通った音も一緒に聞こえているため、揺れの評価がどうしても甘くなります。
これは録音した自分の声が違って聞こえるのと同じ理屈です。だから、耳ではなく録音で判定します。
前半に「揺らしていない部分」を必ず入れてください。比較対象が同じ録音の中にあると、判定がぐっと簡単になります。
録音を聞き返しながら、揺れに合わせて指で机を叩いてみてください。一定のテンポで叩き続けられるなら、速さは安定しています。
よくあるのは、揺らし始めはゆっくりで、だんだん速くなっていくパターンです。これは息が減っていくにつれて、喉で無理に揺れを維持しようとしているサインであることが多いです。この場合は速さの練習より先に、息を一定に流す(腹式呼吸)ほうを整えたほうが近道になります。
録音を聞いて、揺れの「いちばん低いところ」が気になるかどうかを確認します。揺れるたびに音程がぶら下がって聞こえるなら、深すぎるか、中心がずれています。
判定に迷ったら、前半(揺らしていない5秒)と後半(揺らした5秒)を聞き比べて、音程が同じ高さに感じられるかを確かめてください。後半のほうが低く感じるなら、揺れの中心が下にずれています。これが「ビブラートをかけると音痴に聞こえる」の正体です。
音程そのものが不安定な自覚がある方は、ピッチを安定させる練習を先に済ませたほうが、結果的に早く身につきます。揺らす技術は、止められる技術の上に乗っているものだからです。
同じ録音を3回繰り返して、3本並べて聞いてみてください。速さも深さもかけ始めも、毎回ほぼ同じなら、それはもう「使える」ビブラートです。
逆に、1本目はうまくいったのに2本目は震えてしまうという状態は、まだ偶然に頼っている段階です。歌ってみたの録音では何テイクも録ることになるので、再現できないビブラートは、編集で選べるテイクを減らしてしまいます(テイクの考え方は録音は何テイク録るかで詳しく扱っています)。
いきなり「揺らそう」としないことが、いちばんの近道です。速い揺れから入ると、ほぼ確実に喉を締めて震わせる癖がつきます。次の順番で進めてください。
同じ音の「ド」と、半音上の「ド♯」を、1秒に1往復くらいのゆっくりした速さで行き来します。まだビブラートには全く聞こえません。それで正解です。ここでやっているのは「音程を意図的に動かす」という感覚を作ることです。
ポイントは、音を切らずにつなげたまま動かすこと。「ド、ド♯、ド、ド♯」と区切ってしまうと別の練習になります。
メトロノームをBPM 60に設定し、1拍に1往復から始めます。慣れたら1拍に2往復、次に3往復と、段階的に速くしていきます。
BPM 60で1拍3往復=1秒あたり3回、BPM 120で1拍3往復=1秒あたり6回という計算になります。前の章の目安(5〜7回)に、数字として近づけていけるのがこの方法の利点です。ブラウザで使える無料のメトロノームでも十分できます。
ここまでは半音幅で練習してきましたが、実際の歌ではもう少し浅い揺れのほうが自然に聞こえる場面が多いです。半音の半分くらいを目指して、幅を狭めていきます。
幅を狭めると、多くの人は速さも一緒に上がってしまいます。録音して、速さが変わっていないか確認してください。深さと速さを独立して動かせるようになると、曲に合わせて使い分けられるようになります。
最後に、実際の曲で「どこにかけるか」を先に決めてから歌います。おすすめは、フレーズの最後の伸ばす音だけに絞ることです。
全部の音にかけると、くどくなるだけでなく歌詞が聞き取りにくくなります(この現象は歌詞が聞き取れないと言われる原因でも触れています)。かけない場所があるから、かけた場所が映えます。
「ビブラートは喉で揺らすのか、お腹で揺らすのか」という議論をよく見かけます。これについては、身体の中で実際に何が起きているかを言い切れるほど単純ではない、というのが正直なところです。
ただ、練習の入り口としては「喉を固めたまま震わせようとしない」という一点だけ守れば十分だと考えています。喉に力を入れて震わせる動きは、速さが安定しないうえに、長時間続けると喉に負担がかかります。喉の疲れが気になる方は喉を守る・声を枯らさない方法も参考にしてください。
ここからは、MIXを扱っている立場から、あまり語られていない話をします。歌ってみたのMIXを承っていると、次のような依頼をいただくことがあります。
この2つは、実は同じ仕組みから生まれている問題です。
音程を揺らすエフェクト自体は存在します。しかし前半で書いたとおり、人の歌のビブラートは音程・音量・声色が連動して変化しているものです。音程だけを機械的に揺らしても、音量と声色がついてこないため、「揺れてはいるが、生きていない」不自然な音になります。
MIXで直せることと直せないことの線引きは、ここでもはっきりしています。ビブラートは、録音の段階でしか入れられません。MIXの守備範囲については歌が下手でもMIXで上手く聞こえる?直せること・直せないことの境界線で詳しくまとめています。
こちらのほうが、実際に起きる頻度は高い問題です。
ピッチ補正(いわゆるオートチューン系の処理)は、「本来あるべき音程からのズレを直す」という考え方で動いています。ところが、ビブラートも音程のズレとして検出されます。補正の反応速度を速く設定するほど、揺れは「直すべきズレ」とみなされて、平らにならされていきます。
| 補正の設定 | 音程 | ビブラート |
|---|---|---|
| 反応を速くする | かっちり合う | 消える・平らになる |
| 反応を遅くする | やや自然に残る | 残りやすい |
つまり、「音程をきっちり合わせる」と「ビブラートを残す」は、ある程度トレードオフの関係にあります。どちらを優先するかは曲や好みによるので、エンジニア側が勝手に決めるべきではありません。自然なピッチ補正のコツでも書いているとおり、ここはご本人の希望を聞くべき場所です。
もうひとつ、現場でよく見かける原因があります。音域ぎりぎりの高さで歌っていると、ビブラートをかける余力が残りません。声を出すだけで精一杯になるため、揺れが震えに変わります。
「練習ではかけられるのに、本番の曲だとかけられない」という方は、技術ではなくキーの問題であることを一度疑ってみてください。音域チェッカーで自分の音域を測り、原キーの調べ方とキーを何音下げるかを確認すると、判断がつきます。半音か1音下げただけで、急にビブラートがかかるようになることは珍しくありません。
| 失敗 | 何が起きているか | 対処 |
|---|---|---|
| 顎(あご)を揺らしている | 顎の上下で音程を揺らす癖。鏡を見ると分かる | 顎に軽く指を添えて、動かないまま揺らせるか確認する |
| 喉を締めて震わせている | 速さが安定せず、喉が疲れやすい | 段階1のゆっくりした往復に戻る |
| 全部の音にかけている | くどく聞こえ、歌詞も聞き取りにくくなる | フレーズ最後の伸ばす音だけに絞る |
| 揺れの中心が下にずれている | 揺らすほど音痴に聞こえる | 揺らさずに正しい音程を保つ練習に戻る |
| 息が足りないまま揺らしている | 後半で速くなる・途切れる | ブレスの位置を見直す。息を一定に流す練習を先に |
| 週 | やること | 録音での確認点 |
|---|---|---|
| 1週目 | 半音幅で、1秒1往復のゆっくりした行き来 | 音が切れずにつながっているか |
| 2週目 | メトロノームで速さを段階的に上げる | 速さが一定か(指で叩けるか) |
| 3週目 | 幅を半音の半分程度まで狭める | 幅を狭めたときに速さが変わっていないか |
| 4週目 | 実際の曲で、かける場所を決めて歌う | 3回録って、毎回同じようにかけられるか |
1日5分で構いません。長時間やるより、短く毎日続けるほうが向いている練習です。そして1週目の初日と、4週目の最終日は必ず録音を残してください。この2本を並べて聞くことが、いちばん確実な成果の確認方法になります。
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録音環境が原因で揺れがうまく録れない場合は、北池袋のレコーディングスタジオで録ってみるのも手です。部屋の反響が少ない環境だと、自分のビブラートを正しく聞き取りやすくなります。