マイクもオーディオインターフェースも用意して、いざ録音ボタンを押した。ところがヘッドホンから自分の声が返ってこない。あるいは聞こえるけれど、自分の声がワンテンポ遅れて追いかけてくる。歌ってみたの宅録で最初につまずくのは、実はマイク選びでも歌唱力でもなく、この「返し(モニター)」であることがとても多いです。
この記事では、症状を3つに切り分けて、確認する順番・レイテンシー(遅延)の減らし方・返しの音量バランスの作り方を順番に解説します。最後に、返しが整っていない状態で録った音源がMIXの現場で何に困るのかもまとめました。
「モニターがおかしい」とひとまとめにすると原因が見えません。次のどれに当てはまるかを先に決めてください。
| 症状 | 主な原因 | 見に行く場所 |
|---|---|---|
| ① 自分の声がまったく聞こえない | 音の通り道がどこかで切れている | ケーブル・インターフェースのつまみ・DAWの設定 |
| ② 聞こえるが遅れて追いかけてくる | レイテンシー(往復の処理時間) | モニタリング方式・バッファサイズ |
| ③ 聞こえるがバランスが悪くて歌いにくい | 返しの作り方 | オケと自分の声の音量比 |
あちこち触ると原因が分からなくなります。マイクに近いほうから順番に1つずつ見ていってください。
マイクの音は、そのままヘッドホンに届いているわけではありません。マイク → デジタルに変換 → パソコン → DAW → 音に戻す → ヘッドホンという往復をしています。この往復にかかる時間がレイテンシー(遅延)です。
パソコンは音を1サンプルずつではなく、ある程度まとめて処理します。この「まとめる量」がバッファサイズです。大きくまとめるほどパソコンは楽になりますが、そのぶん待ち時間が増えます。
| バッファサイズ | 片道の理論値(48kHz時) | 体感 |
|---|---|---|
| 64サンプル | 約1.3ミリ秒 | ほぼ気にならない/パソコンの負担は大 |
| 128サンプル | 約2.7ミリ秒 | 録音向けの定番あたり |
| 256サンプル | 約5.3ミリ秒 | 人によっては気づき始める |
| 512サンプル | 約10.7ミリ秒 | 歌いにくさを感じやすい/MIX向け |
表の数字は「バッファサイズ ÷ サンプルレート」で出した理論値です。実際にはAD/DA変換やドライバの処理時間が上乗せされ、往復の体感はこれよりも大きくなります。一般に、歌のタイミングが取りづらくなるのは往復で10ミリ秒前後からと言われますが、感じ方には個人差があります。
オーディオインターフェースが内部でマイクの音をヘッドホンへ直接返す機能です。パソコンを一切通らないため、原理的に遅れがほぼ発生しません。歌の録音では、まずこれを試してください。
注意点は、本体にエフェクト機能がない機種の場合、返ってくるのは素の声だということです。リバーブのない自分の声は想像以上に生々しく聞こえるので、最初は違和感があるかもしれません。録音した自分の声が違って聞こえる理由とあわせて読むと、その違和感の正体が分かると思います。
「リバーブをかけて気持ちよく歌いたい」という場合はDAW経由になります。このときバッファサイズを小さくすると遅れは減りますが、パソコンの負担が上がり、プチプチというノイズが出やすくなります。
設定の考え方はシンプルで、録音するときは小さく、MIXするときは大きくです。小さめの値から試して、ノイズが出たら一段ずつ上げ、ノイズが出ない中でいちばん小さい値を選んでください。Windowsではメーカー純正のASIOドライバを、Macでは標準のCoreAudioを使うのが基本です。
Bluetoothは音を圧縮して電波で送る仕組みのため、有線と比べて遅れが大きくなります。音楽を聴くぶんには問題になりませんが、歌のタイミングを取るモニターには向きません。録音中は有線のヘッドホンを使ってください。機種の選び方は録音用ヘッドホン・イヤホンの選び方で詳しく扱っています。
音は返ってきている、遅れもない。それでも歌いにくいときは、オケと自分の声の比率が合っていません。ここは機材の問題ではなく、歌そのものに直結する部分です。
| 状態 | 歌に起きること |
|---|---|
| オケが大きすぎる | 声を張り上げてしまい、音程が上ずりやすい。喉への負担も増える |
| 自分の声が大きすぎる | 無意識に小さく歌ってしまい、声量が出ない。ピッチも下がりやすい |
| ちょうどよい | オケに埋もれず、かつ耳を占領しない。ふだんの声量で歌える |
迷ったら「自分がいつもの声量で歌えているか」を基準にしてください。録ったあとに聞き返して、思ったより弱い・思ったより力んでいると感じたら、返しのバランスを疑う価値があります。
ヘッドホンを片耳だけ外すと、生の自分の声と返しの両方が聞けるため、音程が取りやすくなる人がいます。ただし外した側からオケの音が漏れてマイクに入る点には注意してください。漏れた音は録音に混ざり、MIXで取り除くことができません。片耳を外すときは、いつもより音量を控えめにしてください。
MIXの依頼を受けていると、「歌が下手なのではなく、返しが合っていなかっただけ」という音源にしばしば出会います。どこまで助けられるかを正直に整理すると、次のようになります。
| 返しの問題 | 音源に現れること | MIXでの扱い |
|---|---|---|
| オケが大きすぎた | 全体に張りすぎ・上ずり | △ ピッチは補正できるが、力んだ声の質感は残る |
| 自分の声が大きすぎた | 声量が足りない・弱々しい | △ 音量は上げられるが、ノイズも一緒に上がる |
| 遅れたまま歌った | 全体的にタイミングがずれる | △〜× 部分的には直せるが、全体のずれは修正に限界がある |
| ヘッドホンから音が漏れた | オケがうっすら混ざって録れている | × 分離して取り除くことはできない |
どれも「録り直しが効くうちに返しを整えておけば発生しなかった」問題です。MIXで直せる範囲と直せない範囲の全体像は、MIXで直せること・直せないことの境界線にまとめています。
DAW経由でバッファサイズを小さくするしかありません。それでも歌いにくい場合は、インターフェースの買い替えを検討する価値があります。判断の目安はオーディオインターフェースは必要?選び方にまとめています。
基本の考え方は同じですが、スマホは機種やアプリによって扱える範囲が大きく変わります。できることと限界はスマホだけで歌ってみたを録る方法と限界で整理しています。
返し以外の原因が残っている可能性があります。オケの頭出しや書き出し設定が原因のこともあるので、タイミングがズレる原因と直し方で全体ズレと部分ズレの見分け方を確認してみてください。
返しが原因で上ずる・下がることは実際にありますが、それだけとは限りません。返しを整えたうえでまだ不安定なら、ピッチを安定させる練習もあわせて試してみてください。
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返しの設定に時間を取られて歌に集中できない、という方は、北池袋のレコーディングスタジオで録るという選択肢もあります。モニターの設定はエンジニア側で用意するので、到着したらすぐ歌い始められます。返しを整えても声量や音程が安定しない場合は、ボイストレーニングもご相談ください。